近年は、「往年のブランドの復活」が続いている自動車市場ですが、SUVもまたその他聞にもれず、往年のブランド復活の話を耳にします。2014に1年間の限定で70型ランクルの区内販売を復活するという形で、往年のブランドの復活に先鞭をつけたトヨタですが、やはり商機があるとみたのでしょうか、昨年には長らく国内販売が途絶えていたハイラックスの販売を再開しました。
昔はハイラックスというと、町の商店や工務店で使われているピックアップトラックの代表格である一方、屋根付きの「サーフ」など、まだ日本にSUVという概念がない時代からレジャー用途でも人気のあるクルマでした。
タイ生産と言えどもトヨタ品質に抜かりなし
2004年以降は日本国内での販売が終了し、生産拠点もタイ等の海外に移管したため、国内販売復活と言っても現行型はタイからの逆輸入モデルとなります。工業化と経済発展の著しいタイでは、今や自動車オートバイの現地生産化が進んでいます。タイの工業力の進歩は目を見張るもので、実際に現車を見ても品質や質感に国内生産車に見劣りする部分は全くないと言っても良いでしょう。
タフネスさが勝負の8代目
品質が良いだけでは務まらないのがピックアップトラックです。タイでは乗用車として使われる一方、オーストラリア、南米、アフリカでは農園や炭鉱の作業車として酷使されるため、ファミリーカーとしての快適さと、ジャングルの中を荷物満載で走り切るタフネスさを併せ持つ必要があるという、要求される要件のレベルが非常に高いのがハイラックスです。
荷台は腐食に強い防錆鋼鈑を使用、ただし日本仕様は2列シートのダブルキャビンのみのため、荷台が短い仕様しか選べないのが難点でしょうか。日本市場ではまず趣味性の高いSUVで様子見といったところでしょう、ゆくゆくは積載能力の高いシングルキャビンの導入を願いたい所です。
ハイラックスと言えば、海外の某自動車番組でどれだけ破壊しても自走不能には至らなかったというテストで「頑丈」というイメージですが、現行モデルもガッシリとしたラダーフレームを採用しています。クラシックカー好きの筆者が密かにヘビーデューティークロカンに惹かれるのも、こうした昔ながらのラダーフレームシャシーにリジットアクスルという、乗用車では半世紀以上前に廃れてしまったテクノロジーが今も現役で使われているところだったりします。たしかに軽量、ボディ全体のねじれ剛性ではモノコックですが、クロカン車ではまだまだここ一発の頑丈さが正義なのです。先ごろモデルチェンジしたジムニーでさえもラダーフレームシャシーと前後リジットアクスルをPRしているあたり、時代が一周回って今となってはSUVにとってラダーフレームシャシーとリジットサスを採用していることがプレミアムですらあるというのも面白い物です。
参考:SUV/RV車/クロカンの買取専門ページです
このラダーフレームにリジットサス、ボディを取り去って車高を落として1930年代のクラシックカーをモチーフにしたロードスター型やリムジン型のボディを載せて、クラシックカーレプリカを自作できないかと夢想することもあります。
実はファミリーカーとしても使用可能
そもそも、なぜアメリカではピックアップトラックが人気なのか?というのは日本と同様、商用車であるピックアップトラックは実用品でとみなされ、税金が安いからという至極合理的な理由からです。そもそも、自動車(馬車)が実用上の必要に迫られて一般に普及したアメリカと違い、自動車が偉い人が乗る贅沢品から一般に普及した日本では、貨物車や貨物車をイメージさせるワゴンを自家用車にするという事に長らく抵抗がありましたが、レジャーで多目的に使えるという理由でワゴンを自家用車にすることに抵抗を示す人も少なくなりました。
とはいえ、日本でも1ナンバー車の税金はなんと軽自動車並みの13000円、燃料はガソリンではなく軽油でしかも10km/Lくらいの燃費はコンスタントに叩き出すという話です。ただし、車検は初回2年の以後毎年、高速料金は中型車料金(ちなみに4ナンバー車は普通車)が適用されるので注意してください。
日本に導入されたダブルキャブと呼ばれる2列シートタイプのモデルは、一応書類上は5名乗車となっていますが、見た目に反して残念ながらセダンのようなリアシートの広さはありません。軽自動車よりちょっと広い程度でしょうか、ファミリーカーとして使うにはこのリアシートの窮屈さがネックになるかもしれません。
今時のクルマらしく、予防安全装置も設定されているのですが、上級グレードのZグレードのみ標準、スタンダードグレードのGには設定すらないと言うのが残念です。海外生産ゆえに細かい作り分けが難しいという部分があるのでしょう、いっそ全車標準にしてもいいと思うのですが…
走りは意外にも悪くない!
所詮トラックだから走りはかったるいんじゃないの?と思われる方も多い事でしょう。確かにスポーツカーの様な高回転まで吹けあがるレスポンスみたいなものは期待できませんが、2.4Lコモンレール式ディーゼルターボの400N・m(40.8kgf・m)/1600~2000rpmというスポーツカー並みのトルクをまるでアイドリングのような回転数で発生させる湧き上がるようなパワフルな走りに酔いしれる事になるかもしれません。むしろストップ&ゴーの多い街中ではトルクだけで走れるため楽かもしれません。豊富なトルクに6速ATの組み合わせで構想駆走行も余裕でこなしてくれるものと思われます。また、ハイラックスの公式WebのQ&Aには今後の市場の反応次第ではMT仕様の導入を示唆する一文もありました。
また、車高こそ高いですが昔の4ドアセダンのように四隅が角ばっていて窓ガラスも大きく立っているので、前後左右の見切りもよく、車格の割には取り回しが良く感じるという方もおられるのではないでしょうか?
勿論SUVとしてのユーティリティは言うまでも無く、堅牢なフレームとデフロック付き(Zのみ)のパートタイム4WDで悪路の走破性は折り紙付きです。むしろSUVというよりはランクルやジムニーといったヘビーデューティクロカンに近いクルマなので、本格的オフローダーと混じって、クローリングや泥濘地のアタックも可能でしょう。大規模災害の多い昨今、万が一に備えて積載量と走破性の高いハイラックスを自家用車に…という選択肢もありかもしれません。
ハイラックスの名に恥じないクルマ
海外生産と聞いて不安に思う方もいるかもしれませんが、むしろハイラックスの様なヘビーデューティーなピックアップトラックが日常に必要な国の人が作っているという点ではむしろ、日本人以上にハイラックスを知り尽くしている人が作っていると言ってもいいかもしれません。
ただ、一つ難を言えば日本よりも広い道路が整備された国向けにマーケティングされたため、どうしても日本で使用するには大きさがネックになるという点でしょう。実際のところ、作業車として使われたハイラックスの耐用年数が過ぎてしまったものの、代替えになる車両が無いということで日本導入されたハイラックスですが、業務用途としてはいまいち芳しくないというのはここに原因があるようです。
とはいえ、セールスマンの話ではリターン組のユーザーが多く、昔ハイラックスに乗っていたからまた新車で買えると聞いて購入に至ったとうケースが多いようで、オールドファンを納得させるには十分な魅力を持っていることは事実のようです。
[ライター・画像/鈴木 修一郎]